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 以前、友人のお母様に頼まれ、梨木香歩の作品を『西の魔女が死んだ』を中心に語る文章を書きました。
 結構気合入れて書いてしまい、もったいないので貼っておこうと思います。

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 梨木香歩は彼女の作品世界において決して読者に主張をしない。
 この物語の訴えるものはなんだろうか、という問いが彼女の作品に対しなされたとき、得意満面で一言に断じるような読者がいたとしたら、それは彼女の作品を読んでいない(あるいは読めていない)のだと認識せざるを得ない。
 最もそれに近いのは癒し、そして調和という言葉だろうか。今では使われすぎ、すりきれて陳腐にさえ感じられるようになってしまった言葉かもしれないが、彼女は作品の中で常にそれらの漠然とした単語を言い表す方法を探しているように思える。
 だが、それは主張ではない。
 梨木香歩自身が模索しているようにさえ感じられるときがある。そして、主張は彼女の本意ではないのではないか。
 彼女はあくまでも一つの「物語」を作ろうとする。目的のための手段、手段のための目的、そういった書き手と作品、テーマとストーリーの観念的な分離が無い。彼女の手で統合された世界である。
 もうひとつ、梨木香歩の立ち位置を考えたとき、思い浮かぶ単語がある。
 neutral。
 日本語で言うのは少し難しい。
 中立、と言うほどに彼女が認識する世界は対立してはいないのだろうし、中間、と言うには彼女はいささか逸脱している。文化、価値観、感情、様々なものを冷静に見つめて、同等に描く。どれか一つを奨励することは無い。neutralであることを声高に叫ぶことも無い。
 ここでも、彼女は主張をしない。
 また、梨木香歩は自己顕示のために作品を書いているのではなく、自己世界の平穏のために紙の上に溢れたものを書き留めているように感じられる。しかし素人のやるような自己満足的でご都合主義の世界観や、くだらない私小説とは違う。幼い頃から物語を必要としてきた人間にはよくあるように、読者の視点を第一として世界を構築している。自分の鑑賞に堪えない物語など作り出すものか、というある種のプライドさえ感じさせる作家の一人であり、私にはそれが好ましい。
 梨木香歩は言語と文化を愛している。日本語と日本文化、という意味ではない。彼女がそんなナショナリストだったら、私の愛する『村田エフェンディ滞土録』も『からくりからくさ』も生まれてはこなかった。『西の魔女が死んだ』も同様である。彼女は確かに自らの思考の根本である日本語を愛し、自らを育んだ日本文化を愛しているのだろうけれど、それらを相対的に見つめる目を持っている。
 西と東。端的に言えば世界の両極は、彼女の描き出す特色のひとつである、と思う。
 読む人にとっては、梨木香歩の作品は非常にメッセージ性の強いものなのだろう。『西の魔女が死んだ』を自らの体験に重ねる読者は少なくない。いわゆるイジメや、少女の成長といったものに焦点を置いた、感情移入型の楽しみ方だ。
 私は別の読み方をした。
 日本的鬱屈を抱えたまいと、西洋的闊達さを持ったおばあちゃんとの物語。
 寒々しい都会から穏やかな田舎暮らしへ。
 そして最も根底にあるのが生きるということと死ぬということの対比であった。
 けれど、neutralな彼女はそれらを決して対立事項にはさせない。
 おばあちゃんは往々にしてまいにとっての絶対的保護者ではあるが、時に理不尽で、決して万能ではない。それでもまいには、おばあちゃんの強引さが必要だった。田舎暮らしで過ぎる時間は穏やかなものであったが、時折黒い染みのように田舎特有の陰惨さ、そして厳しさがにじんでくる。生活というものの文字通りの輝きの中で、日々を送ることの苦しさを描写することは忘れられていなかった。表題の死、まいを苦しめたその概念は、最後には鮮やかな明るさをもって描かれた。
 そしてそれらの一切が、無理なく、調和をもって収まる世界。それに私は驚嘆した。
 ともすれば共感や感情移入だけを読書の価値としがちな現代の出版戦略の中にあって、彼女の作品はその隠れ蓑の中で、私に純然たる「物語」を楽しませてくれる。

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 どう考えても長すぎです。すみませんでした。
 梨木香歩大好きです。
 でも、『沼地のある~』だけはちょっと違いましたね。
 それまでの彼女らしくない「お話」でした。
 面白くなくはないのですが……今までの「物語」とは明らかに違う、異質な、作品でした。
 その異質さがある意味ストーリィそのものとリンクしてくるところがあったので、それはそれで彼女の作品の歴史なのだと思います。

(昔の日記をちょこっと改訂)

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