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 一角が出来上がらないので短いお話でも、と思いまして。
 今の実力で三十分では、このくらいが限界です。


 提燈を持たねばならぬと釘をさしてきたのは、渡し守であった。そう言われても灯りの持ち合わせなどはない。ではどうすればいい、船に乗せぬということかと問えば、渡し守は当然とばかりに岸辺を指した。
 ――花提燈を作ればいい。
 群を成す曼珠沙華を一瞥する。
 ――花が光るものか。
 ――光るとも、折ってみろ。
 促され、かがみこんで一輪を手折る。ぱきん、と瑞々しい感触がした。
 ――茎の中ほどを、皮を残して折る。花へ向かって少し剥いで、反対側を同じように折って、花に向かって皮を剥いで……その繰り返しだ。
 渡し守に言われるがままに、花提燈を作る。途中何度か間違えて、茎と花とが分かれてしまった。その度に花を川に放り、新しい曼珠沙華を手折る。音もなく流れる水面には、紅い花がいくつも浮かんだ。草の汁に塗れた指が冷える。
 ――これは毒を持つ徒花だと聞いていた。手が腐って落ちるかもしれない。
 ――毒を持つのは根ばかりだ。その根でも、昔は食ったものだった。
 ――何故。
 ――飢饉を知らないか、幸せなことだ。
 手を動かす傍らで、言葉を重ねる。渡し守はこちらを待っているらしかった。蛇腹のようなその構造にようやく合点がゆき、拙いながら何とか小さな花提燈を作り上げる。幼子のころに戻ったようで、なにやら嬉しくなって手に提げてみると、冷えた風にゆらりと紅い花が揺れた。
 ――さあ、これでいいだろう。
 勝ち誇ったように言って、顔を上げる。
 そこには川は無く、色づいた稲穂がこうべを垂れるばかりであった。
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